天文現象を予測するには,太陽・月・惑星などの運動について知らなければならない.これまで本書では,米国ジェット推進研究所JPL (Jet Propulsion Laboratory) が惑星探査用に編纂した月・惑星の暦で,国際的にもっとも広く用いられているDE (Development Ephemeris) シリーズを採用してきた.具体的には昭和60年版(1985)からはDE200,平成15年版(2003)からはDE405,平成28年版(2016)からはDE430という具合である.
令和8年版からは,その後継にあたるDE440を採用することとしたので,ここに整理する.
DE430とDE440のおもな違いは以下のとおりである.
天体別に具体的な黄経・黄緯・動径の違いをグラフにすると以下のようになる.ただし,惑星は日心座標,月は地心座標,いずれもDE430の数値からDE440の数値を引いたものである.平成28年トピックスのグラフと比較すれば,今回の改訂による影響はかなり小さいことがわかるだろう.
暦象年表の表値については,赤経は0.001 s (15 mas‡),赤緯は0.01″(10 mas),距離は0.0000001 au (15 km) までであるから,太陽・月・内惑星・土星では時折四捨五入により違いが出る程度である一方,木星・天王星・海王星ではそれなりに違いが出てくる.理科年表 は表示桁数が少ないので影響も小さく,暦要項ではほとんど影響は現れない.
では,DE440とDE430に大差はないのかというと,じつはそうとも限らない.長期にわたる月の黄経および朔の時刻を比較すると,むしろDE440のほうが差は大きいことがわかる§.この差については,将来にわたって検証していく必要があるだろう.
最後に,おもなパラメータをまとめておく.
項目 | IAU2009/2012 | DE430 | DE440 |
---|---|---|---|
au [km] | 149 597 870.700 | 149 597 870.700 | 149 597 870.700 |
GMS [×1020 m3s-2] | 1.327 124 400 41 | 1.327 124 400 419 | 1.327 124 400 412 794 19 |
質量比 (MS / MP) | |||
水星 | 6023 600. | 6023 682. | 6023 657.945 |
金星 | 408 523.719 | 408 523.719 | 408 523.719 |
地球+月 | 328 900.5596 | 328 900.5598 | 328 900.5597 |
火星 | 3098 703.59 | 3098 703.59 | 3098 703.55 |
木星 | 1047.348 644 | 1047.348 625 | 1047.348 631 |
土星 | 3497.9018 | 3497.9018 | 3497.9018 |
天王星 | 22902.98 | 22902.98 | 22902.951 |
海王星 | 19412.26 | 19412.26 | 19412.26 |
地球と月の質量比 | 0.012 300 0371 | 0.012 300 0369 | 0.012 300 0370 |
‡) masとはmilliarcsecond,すなわち角度1″の1/1000を表わす単位.→本文(‡)に戻る
§) 厳密には各暦の長期版DE406/431/441を比較している.→本文(§)に戻る
暦象年表2026より