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土星の環の消失

土星は,太陽系の惑星の中でも,とくに際立った存在感を放つ天体である.まず,赤道半径は60,268 km〜地球の約9.4倍で木星に次ぐ大きさを持ちながら,質量は5.7 × 1026 kg〜地球の約95倍で平均密度は0.69 × 103 kg m-3と,惑星で唯一水より低密度な天体となっている.また,近年はすばる望遠鏡などによる衛星発見の報告1が相次ぎ,報告された総数は149で最多となった2.土星の衛星といえば,液体メタンの湖を持つタイタン,地下に水の海を持つエンケラドゥスなど,これまたユニークな姿が探査機カッシーニによって明らかにされている.

その中でもとくに際立つ特徴といえば,やはり,たいへん見ごたえのある環の存在であろう.この環は一枚の板ではなく,土星の周囲を高速で公転する氷の粒が集まったもので,太陽光を反射することにより明るく輝いている.2025年,この環がほとんど見えなくなる「環の消失」という現象が発生する.

環の消失する条件

環の消失条件 公転と環の消失

環が見えなくなる条件は大きく3つに分かれる.まずは,土星から見て地球が赤道方向にある場合で,環はたいへん薄いため,横向きではほとんど見えなくなる.次に,土星から見て太陽が赤道方向にある場合も,薄い環に太陽光が当たらないため,ほとんど見えなくなる.このような場合は,約29.5年の公転周期中に2回だから,およそ15年に1回チャンスがある.土星から見れば,地球も太陽も似たような方向にあるので,前者も似たような時期に起こるが,逆行のためチャンスは最大3回もありうる.最後に,土星に対して地球と太陽が南北に分かれる場合も,地球から見えるのは太陽光の当たらない面となるため,環はほとんど見えなくなる.

地球と太陽の緯度

土星から見た地球と太陽の方向を緯度で表すと,このグラフのようになる.赤道方向は緯度0°だから,これを横切るタイミングで環の消失は発生し,前回は2009年,次回は2039年と,大まかな頻度も見て取れる.

2025年の場合

2025年の場合,まず3月24日に地球が土星の北側から南側へ移り,続いて5月7日に太陽も南側へ移る.前者が第1の条件,後者が第2の条件,その間が第3の条件に合致している.ただし,3月から4月中旬までは太陽に近いため,観望には適さない.5月7日ごろは,夜明け前の東の低い空に,金星を目印として探すとよいだろう.さらに,グラフをよく見ると,2025年にはもう1回,地球が土星の赤道方向に近づくこともわかる.これは11月25日ごろで,こちらは夕方から夜にかけて高度も十分にあり,観望しやすい.なお,環の観望には少なくとも三脚付きの望遠鏡は欠かせない.

2025年に向け,徐々に「消失」してゆく環の変化を今から楽しんでいきたい.

ほしぞら

備考

1) 「すばる望遠鏡、土星の 100 番目の衛星を発見」などを参照. → 本文(1)に戻る

2) 2024年4月現在.疑わしいものを除くと146.「惑星の衛星数・衛星一覧」などを参照. → 本文(2)に戻る

暦象年表2025より